「ダメって言ったのに、また同じことしてる!」 「何度注意しても全然聞かない…」
3歳の子どもを育てているパパ・ママなら、誰もが感じたことがあるはずです。 実はこれ、しつけの問題でも、わがままでもありません。脳の発達段階として、ごく自然なことなのです。
鍵を握るのは「前頭前野」という脳の部位
脳には「前頭前野(ぜんとうぜんや)」と呼ばれる領域があります。額の裏側あたりに位置するこの部分は、「脳の司令塔」とも呼ばれ、次のような高度な機能を担っています。
- 抑制:衝動的な行動にブレーキをかける
- 判断・計画:「今これをやると、あとでどうなるか」を考える
- 感情のコントロール:怒りや欲求を適切に抑える
- 注意・集中:大事なことに意識を向け続ける
大人がなにげなくやっている「ちょっと待って」「ここは我慢しよう」といった行動は、すべてこの前頭前野が支えています。
3歳児の前頭前野は、まだほぼ「工事中」
問題は、この前頭前野の発達が非常にゆっくりだということです。
東京大学の研究グループは、近赤外分光法という技術を使って、3歳児と5歳児の前頭前野の活動を比較しました。その結果、「こだわり行動(自分のやりたいことを曲げられない行動)」を示した3歳児と、そうした行動がほとんどなかった5歳児の間で、前頭前野の脳活動に著しい差があることが明らかになりました。この研究は米国科学アカデミー紀要(PNAS)にも掲載されており、3〜5歳という時期の前頭前野の機能的発達を世界ではじめて計測した画期的なものです。
別の研究では、前頭前野のうち抑制を担う「前頭前皮質」の機能は、なんと25歳ごろまで成長が続くとされています(神経科学者Sarah-Jayne Blakemoreらの研究)。
つまり3歳の子どもは、衝動を抑えるブレーキシステムが、まだほとんど出来上がっていない状態なのです。
「何度言っても聞かない」は当たり前だった
この事実を知ると、日常のあんな場面がすっかり違って見えてきます。
スーパーのお菓子売り場で大泣き → 「欲しい!」という衝動にブレーキをかける機能が未発達なので、欲求のままに行動してしまうのは当然です。
「触ったらダメ」と言ったのに、また触る → 言葉の意味はわかっていても、「やめる」という抑制の回路がまだ機能しきれていません。何度注意しても、次の瞬間には「触りたい」衝動が勝ってしまうのです。
嫌なことがあると癇癪(かんしゃく)を起こす → 怒りや悲しみを感情として感じることはできますが、それを「適切にコントロールする」機能がまだ備わっていません。
自分のルーティンにこだわり、少し変わるとパニック → 前述の東大研究でも示されているように、3歳の頃は前頭前野の未発達によってこだわり行動が生まれやすいことがわかっています。
「何度言ったらわかるの!」という親の言葉は、発達段階へのズレから生まれた期待なのかもしれません。
では、いつごろからできるようになる?
「ずっとこのままなの…?」と心配しなくて大丈夫です。前頭前野はゆっくりと、でも確実に発達していきます。
| 年齢の目安 | できるようになること |
|---|---|
| 5歳ごろ | 少し待てるようになる。「順番こ」や「あとで」が理解できてくる |
| 小学校低学年(6〜8歳) | ルールを理解して守ろうとする意識が育ち始める |
| 小学校高学年(9〜12歳) | 物事をある程度客観的に見て、自分の行動を振り返れるようになる |
| 中高生(13〜18歳) | 論理的に考え、未来を見据えた判断ができ始める(ただし感情制御はまだ不安定) |
| 20代半ば(〜25歳) | 前頭前野が完成に近づき、計画性・感情制御・他者への共感がより安定する |
文部科学省の資料でも、9歳以降(いわゆる「9歳の壁」)になると、子どもが物事をある程度対象化して考えられるようになり、集団のルールを主体的に守ろうとする姿勢が育つと述べられています。
「待つ」ことがいちばんのサポートかもしれない
もちろん、何もしなくていい、というわけではありません。前頭前野は豊かな体験と関わりの中で育っていきます。
- 「止まる」練習を遊びで:だるまさんがころんだ、音楽が止まったら止まるゲームなど、動きを止める体験は前頭前野の抑制機能を楽しく鍛えます
- 環境を整える:「触ってほしくないものは手の届かない場所へ」という環境調整は、叱り続けるより効果的
- 短い言葉で、すぐ:「ダメ」「待って」など、シンプルで即時のフィードバックが3歳には届きやすい
- 成功体験を積む:「できた!」の積み重ねが自信につながり、脳の発達を後押しします
最後に
3歳の子どもが言うことを聞かないのは、親のせいでも、子のせいでもありません。前頭前野という脳の部位が、今まさに育っている最中なのです。
「また怒ってしまった…」と自分を責めてしまいそうなとき、ぜひ今日の話を思い出してみてください。
あなたのお子さんの脳は、いまこの瞬間も一生懸命つくられているのです。
参考情報
- 東京大学プレスリリース「就学前児における前頭前野の機能的発達」(米国科学アカデミー紀要掲載)
- Blakemore, S.J. (2012). Development of the social brain in adolescence. Journal of the Royal Society of Medicine, 105(2), 111–116.
- 文部科学省「子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題」


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