ごはんを残されるとつい怒っちゃう…あの行動、実は成長の証でした
「マズイ!」と言って残したくせに、寝る前に「お腹すいた〜」と言ってくる。
…え、さっきの何だったの? と思ったことがある方、きっと多いはず。
今回は、この”謎の矛盾行動”の正体と、親としてどう向き合えばいいのかを一緒に考えてみます。
「マズイ!」→「お腹すいた」…あるある、うちだけじゃなかった
先日、うちの3歳の娘が夕飯中にこう言いました。
「これマズイ」。
しかも、さっきまで普通に食べていたおかずです。急に箸を止めて「マズイ」と言い、ごちそうさま。
そして寝る前になって「お腹すいた〜」と泣きながらやってきたんです。
正直、カチンときました。「さっきマズイって言ったよね? マズイって言ったもの、捨てたんだよ。食べ物を粗末にしちゃダメでしょ」と、つい怒ってしまいました。
結局、食べ物はあげたんですが……怒らないで普通に出してあげた方がよかったのか、あのまま何もあげない方がよかったのか。正解がわからない。そんなモヤモヤが残りました。
もし同じような経験をしたことがある方がいたら、安心してください。これ、3歳児あるあるです。そして、ちゃんと理由があります。
さっきまで食べてたのに「マズイ」と言う、3歳児の頭の中
大人からすると「矛盾してるでしょ!」と言いたくなるこの行動。でも3歳の子どもの脳と心を知ると、ちょっと見え方が変わります。ポイントは3つあります。
① 脳の”ブレーキ”がまだ育っていない
人間の脳で、衝動をコントロールしたり先のことを考えたりする部分を前頭前皮質(ぜんとうぜんひしつ)(簡単に言うと、脳の”ブレーキ役”のこと)と言います。この部分は25歳頃まで発達し続けると言われていて、3歳ではまだまだ未熟です。(※Casey et al., 2005; Diamond, 2002)
つまり、「今は食べたくない」という”今この瞬間の気持ち”がすべてで、「あとでお腹がすくかも」という先の予測ができないんです。だから「マズイ」と言った30分後に「お腹すいた」と言っても、子どもの中では矛盾していません。
② 「自分で決めたい!」の爆発期
3歳前後は自我がぐんぐん育つ時期。食事は、子どもが自分でコントロールできる数少ない場面のひとつです。「食べない」と決めることで「自分で決められた!」という満足感を得ています。(※Satter, 1986; Dovey et al., 2008)
これはワガママではなく、自律性の発達——つまり成長の証なんです。
③ 「食べたくない」と「おいしくない」は別のこと
2〜6歳は食物新奇性恐怖(フードネオフォビア)(簡単に言うと、見慣れない食べ物を怖がる反応のこと)がピークになる時期です。これは人間が進化の中で獲得した、知らないものを口にしないための防御反応だと考えられています。(※Dovey et al., 2008; Birch, 1999)
さっきまで食べていたものでも、ふと気分が変わったり、見た目が少し違って見えたりするだけで「マズイ」になることがあります。大人が言う「おいしくない」とは意味が違うんですね。
怒ると逆効果? 食事と”叱り”の関係
僕自身も怒ってしまったので偉そうなことは言えないのですが、研究の世界では、食事中のネガティブな体験は逆効果になりうると言われています。
Booth(1990)の研究では、食事に対してネガティブな学習が起きると、体が食欲そのものを抑制してしまう(つまり本当に食べたくなくなる)ことが示されています。叱られた記憶と食べ物がセットになって、「この食べ物=怒られる=嫌なもの」と結びついてしまう可能性があるんです。
もちろん、一度怒ったからといって取り返しがつかないわけではありません。大事なのは、食卓を”安心できる場所”に保つこと。完璧を目指す必要はなくて、「昨日は怒っちゃったけど、今日は穏やかにいこう」でいいんです。
じゃあどうすればいい? 今日からできる3つのこと
アメリカの栄養士・家族療法士であるエリン・サター(Ellyn Satter)が提唱した「食事の役割分担モデル」(簡単に言うと、親と子の”食事の担当”を分ける考え方のこと)が参考になります。
親の担当:「何を」「いつ」「どこで」食べるかを決める
子どもの担当:「食べるかどうか」「どのくらい食べるか」を決める
この考え方をもとに、具体的にできることを3つ紹介します。
① 「食べなさい」ではなく、”出すだけ出す”
残しても叱らず、食べても大げさに褒めすぎず。「出されたものを食べるかどうか」は子どもの領域だと割り切ると、親もラクになります。研究では、同じ食品を8〜15回繰り返し出すことで受け入れやすくなるという報告もあります。
② 寝る前の「お腹すいた」には淡々と対応
「だからあの時食べなさいって言ったでしょ!」と言いたい気持ちはぐっと飲み込んで、夕飯の残りやおにぎりなど、シンプルなものを淡々と出すのがおすすめです。ここでお菓子をあげると「夕飯を断ればお菓子がもらえる」と学習してしまう可能性があるので、あくまで食事の延長で。
③ 食卓を”戦場”にしない
食事中は食べ物の話題(「もっと食べなさい」「お野菜は?」)を減らして、家族の会話を楽しむ。食事が楽しい雰囲気であるほど、子どもは自然と食べるようになると言われています。
理学療法士の視点から一つ。3歳の「自分で決めたい!」は、運動発達で言えば「自分で靴を履きたい」「自分で階段を降りたい」と同じ流れにあります。体の自立と心の自立は連動しています。食事の場面でも”自分で決められた”という経験が、子どもの自己効力感(「自分はできる」という感覚)を育てます。食べないことにイライラしたときは、「この子、ちゃんと自立に向かってるんだな」と思ってみてください。
まとめ
「マズイ」と言って残した後に「お腹すいた」と言うのは、脳のブレーキが未熟で、自分で決めたい気持ちが育っている証拠。怒ると食事そのものが嫌な記憶になりかねないので、「何を出すか」は親が、「食べるかどうか」は子どもが決める、と役割を分けてみましょう。完璧じゃなくて大丈夫。少しずつ、食卓を安心できる場所にしていけたらいいですね。
怒っちゃった日も、ちゃんと「ごはんをあげた」あなたは、いい親です。
Casey, B. J., Tottenham, N., Liston, C., & Durston, S. (2005). “Imaging the developing brain: what have we learned about cognitive development?” Trends in Cognitive Sciences, 9(3), 104-110. https://doi.org/10.1016/j.tics.2005.01.011
Dovey, T. M., Staples, P. A., Gibson, E. L., & Halford, J. C. G. (2008). “Food neophobia and ‘picky/fussy’ eating in children: A review.” Appetite, 50(2-3), 181-193. https://doi.org/10.1016/j.appet.2007.09.009
Satter, E. M. (1986). “The feeding relationship.” Journal of the American Dietetic Association, 86, 352-356.
Booth, D. A. (1990). “Learned role of tastes in eating motivation.” In E. D. Capaldi & T. L. Powley (Eds.), Taste, Experience, and Feeding. American Psychological Association.
Białek-Dratwa, A. et al. (2022). “Neophobia—A Natural Developmental Stage or Feeding Difficulties for Children?” Nutrients, 14(7), 1521. https://doi.org/10.3390/nu14071521
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た
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たいぺい
理学療法士(PT)。脳外科病棟6年、デイサービス3年、整形外科病棟2年勤務。3歳と0歳の娘を持つパパ。子どもの行動や体の不思議を、エビデンスをもとにわかりやすく発信中。
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